一ニ之懸

平家物語巻第九より「一二之懸(いちにのかけ)」。一の谷西の木戸口にて、熊谷次郎直実(くまがいじろう なおざね)と平山武者所季重(ひらやまのむしゃどころ すえしげ)が敵陣への一番乗り、ニ番乗りを競い合う。

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あらすじ

六日の夜半頃までは、熊谷直実・平山季重は搦手に控えていた。熊谷は子息直家と、播磨路へ向かって一の谷の先陣をしようと相談する。熊谷は平山も同じことを考えているだろうと思い偵察を出すと、案の定であった。熊谷父子はすぐに出発する。やがて一の谷の波打際に出た。

一の谷に近い塩屋というところに、土肥二郎実平が七千余騎で控えていた。熊谷は夜の闇にまぎれてそこを通り過ぎ、一の谷の西の木戸口に押し寄せた。

まだ夜が深いので静まり返っていたが、熊谷父子は他にも先陣をねらっている味方がいることを意識して、名のりをあげた。平家方は相手にしなかった。

やがて平山があらわれ、成田五郎にだまされて遅れてしまったいきさつを熊谷に語る。

熊谷・平山が控えているうちに夜が明けてきた。熊谷父子はさきほど名乗ったが、平山のいる所で名のろうと思ったのか、あらためて名のりを上げる。

平家の侍二十数騎が、木戸を開けて駆け出した。つづいて平山も名乗りを上げ、熊谷と平山で入れ替り入れ替り、激しく平家方を攻めた。

平家の侍は城の内に退き、防ぎにまわった。熊谷は馬の腹を射られ、小ニ郎は左腕を射られたが、熊谷はなおも城の内の敵を大声で挑発する。

平家方より越中次郎兵衛が出てきたが、熊谷父子の勢いに押され、すぐに引き返す。熊谷は組討ちしろといって挑発するが、越中次郎兵衛は「そうもいかない」と引き返した。

悪七兵衛はそれを見て、熊谷と取り組もうと駆け出したが、越中二郎兵衛は「わが君の御大事はこの一戦だけではない」といって諭す。それで悪七兵衛は思いとどまった。

その後、熊谷は乗替の馬に乗って駆けた。平山も馬を休息させてから熊谷に続いて駆けた。平家方は矢倉の上から雨のように射るが、敵は少なく味方は多いので、大勢の中にまぎれて熊谷らには矢も当たらない。

平家方は「馬をならべて取り組め」と命じるが、平家の馬は乗ることは多く、飼葉をやることは少なく、長く船の中に立たせていたので、まるで動かない。熊谷・平山の馬はよく飼育してあり、強力だった。

平山は命にかえてもと思っていた旗差しを射られたので、敵の中に割って入り、射た敵を討ち取って出た。熊谷も分捕りを多くした。

熊谷は先に攻め寄せたが平家軍が木戸を開けないので入れなかった。平山は後から来たが平家が木戸を開けたので、木戸の内に駆け入った。それで、熊谷と平山で一番、ニ番を争ったのである。

posted by 左大臣光永 | 平家繁栄
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