平家物語「灌頂の巻」より「女院出家(にょいん しゅっけ)」です。
壇ノ浦の戦いに生き残った清盛の娘、徳子が出家する話です。
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出家といっても徳子は世の栄光、綺羅、人にちやほやされることに未練いっぱいのようです。
ほととぎす 花たちばなの香をとめて なくは昔の人や恋しき
この歌にしても、都での華やかな昔を偲び、「ああ…あの頃はよかった。それに引き換え今は」という感じです。
「やっと誠の道に入れた。今後はひたすらみ仏に仕えよう」というさっぱり感はまるで無いです。
徳子の魂が完全に救われるには、続く「六道沙汰」の章で、後白河上皇に自分の歩んできた
人生を物語る必要があるのです。
平家物語が持つ「悲劇を語ることで魂の浄化を得る」という構造が、徳子という人物の上で具現化されているのが印象深いと思いました。
平家物語を読み進めていく中で、「どうしてこんな暗い悲惨な話を作者は書いたのか」という疑問が常に頭にありました。
朗読にあたって「灌頂の巻」を初めてまじめに読んだのですが、その回答が得られた気がします。
「語り」による魂の浄化…。一種、カウンセラーに自分の悲惨な体験を語ってサッパリするような?
そういう所があったのかもしれません。
これに続く「大原入り」「大原御幸」など灌頂巻の各章は、特に文章が流麗です。
ストーリーが云々よりも、情景描写や、歌のような言葉の陳列が面白いところだと思います。
ただ、ほとんど山場のない話ですから朗読を聴いてて眠くなると思います。
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