平家物語巻第六より「入道逝去(にゅうどう せいきょ)」です。
清盛の死が描かれます。
あらすじ
東国・北国で平家への反乱が続いているので、宗盛は自ら大将軍として出陣することを宣言し
ます。
宗盛出陣の前夜、清盛が重病にかかったという噂が流れ、大騒ぎになります。
清盛は、身を焼くほどの異常な熱病に犯され、「熱い熱い」とうわごとを言うばかりでした。
水風呂に入って冷やそうとすれば水が沸騰して湯になり、水をかければジュッとその水は飛び
散ります。
たまに当たる水は黒煙となって殿中に渦を巻きました。
また、二位殿(清盛の妻)が見た夢も恐ろしいものでした。
「無」という文字が書かれた燃える車を、異形の者たちがかついでおり、
彼らは「東大寺の大仏を焼いた罪(「奈良炎上」)によって、閻魔大王から遣わされた迎えの
車だ」と答えます。
夢から覚めた二位殿は、多くの寺社に宝物を納め祈りますが何の効果もありませんでした。
清盛の死を悟った二位殿は、遺言があるかと訊ねます。
清盛は、「自分が死んだら頼朝の首をとり、我が墓の前にかけよ。それが一番の供養だ」と
罪深いことを言います。
閏二月四日、清盛は熱さにもがき苦しみ、遂に帰らぬ人となります。
同七日、愛宕で火葬にし、遺骨は摂津国の経島に納められました。
朗読について
一代の英雄、清盛の死です。
冒頭「祇園精舎」で語られた諸行無常のテーマが、特に色濃く出ている章です。
熱病の描写がすさまじいです。朗読しがいのある所です。
「もしやと筧の水を撒かすれば、石や鉄(くろがね)などの焼けたる様に、水ほとばしって寄
り付かず。
自ずから当たる水は、焔(ほむら)となって燃えければ、黒煙殿中に満ち満ちて、炎渦巻いて
ぞ揚りける」
二位殿が見た夢ですが、人形劇平家物語ではまさに「無」と書かれた車が出てきて、シュール
な映像でした。
清盛が死の間際に「頼朝の首をはねよ」と言ったという事は、吉川英治氏の「新平家物語」の
中では激しく否定されています。
平家物語は因果応報というテーマを強調するために、清盛を徹底した悪人に仕立てています。
歴史上の「平清盛」とは別人と考えるべきでしょう。