祇園女御

平家物語巻第六より「祇園女御(ぎおんの にょうご)」です。
清盛の出生の秘密が語られます。

平家物語 祇園女御 朗読mp3

あらすじ

古老が語るところでは、清盛は忠盛の実子ではなく、白川院の子だということです。

白川院は東山祇園の社の傍に住む「祇園の女御」という女房を寵愛していました。

ある五月雨の降る晩、白川院がお忍びで祇園の女御の元に出かけると、お堂の脇から 鬼のような異形のものが現れます。

白川院は忠盛を呼んで討ち取るよう命じますが
忠盛は「鬼ではなく、狐狸のたぐいだろう」と、生け捕りにすることにします。

取り押さえて見ると、灯明をともす雑用の僧でした。
もしこれを斬っていたらたいそう心ないことであったと、白川院は忠盛の慎重さに感心し、 褒美に祇園の女御をとらせるのでした。

白川院は「女子が生まれれば朕の子に、男子が生まれれば忠盛の子として育てよ」と言いおきます。
すぐに男子が生まれます。

白川院が熊野参詣の途上、休憩されたとき、忠盛は歌に託して男子が生まれたことを告げます。
「いもが子は 這ふほどにこそ なりにけれ」

白川院は下の句を継ぎ、忠盛の子とすべき意思を伝えます。
「ただもり取りて やしなひにせよ」

そののち、この若君の夜泣きがひどいことを伝え聞いた白川院は、 「夜泣きすと ただもりたてよ 末の世に 清く盛ふる こともこそあれ」
(夜泣きしてもひたすら守りとおしてくれ忠盛よ。将来清く盛えることもきっとあろうから)
という歌を送り、この歌にちなんで「清盛」と名づけられました。

このような尊い出生なればこそ、都移しのような天下の大事を思い立ったのかもしれません。

「祇園女御」について

入道死去」で清盛の死が語られた後、清盛の生前のエピソード(追悼話群)が語られる、その一つです。

中でもこの「祇園女御」は昔物語めいた独特の雰囲気を持ってます。
五月雨の降る闇の夜、異形のものが 現れるという趣向は、「今昔物語」的な風情があります。

忠盛と白川院が歌で意思を疎通させるくだりは、なかなかイキです。
顔をちらと見合わせて、ニヤリとしたことでしょう。
それにしても昔の人はホントにこんなとっさに歌をつくれたのでしょうか。

臣下への褒美として寵愛していた女房を下賜するというのは、現代的な感覚では考えられないことですが、 天智天皇の例も惹かれているように、昔は一般的だったようです。

平家物語に登場する女性はこの祇園女御や小督など、住んでいる場所や父親の役職で呼ばれていて 名前は滅多に出てきません。
宮尾登美子さんの「宮尾本 平家物語」ではこの祇園女御にも名前が創作されていました。


posted by 左大臣光永 | 平家凋落
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