御産巻

平家物語巻第三より「御産巻(ごさんの まき)」です。
中宮徳子が懐妊し、多くの人々が見守る中、皇子が誕生します。
後の安徳天皇です。

平家物語:御産巻 朗読mp3

あらすじ

丹波少将成経、康頼法師の二人は恩赦で罪を許され、鬼界が島を出て肥前国加瀬の庄に着きました。
平宰相教盛の薦めにより、二人はここにしばらく留まって、春になって都へ帰ることにします。

治承二年十一月十二日、中宮徳子が産気づきます。
お産は、平頼盛の邸宅、六波羅の池殿で行われることになりました。

後白河法皇、関白藤原基房をはじめ、身分ある人々はこぞっておしかけました。

先例にまかせて、中宮御産の時恩赦が行われたのですが、俊寛一人赦されなかったのは気の毒なことでした。

安産を願って、多くの寺社に使いが送られます。

小松の大臣重盛は、物事に動揺しない人でしたから、嫡子権亮少将維盛以下の公達を従え、 馬に引き出物をのせて参上しました。

これは昔、藤原道長がその娘中宮彰子御産の時、馬を送った例にならったものです。
重盛と徳子の腹違いのですが、徳子が入内する時は父の清盛は出家していたので、 それでは天皇にお仕えすることができないということで、形式上重盛を父としたのです。
父が娘に馬を送るという藤原道長の例にならったのは、理にかなったことでした。

安産を祈って、さまざまな祈りが行われましたが、徳子は陣痛が続くばかりです。
清盛も、二位殿(清盛の妻)もおろおろするばかりです。

修行僧たちが悪霊退散の祈りを上げる中に、後白河法皇はみずから千手経を唱えました。
すると、悪霊が取り付いていた童が急に収まります。
後白河法皇が「どんな悪霊でもこの老法師がいるうちは近づけない」と凄み、安産を祈ると、無事に皇子がご誕生しました。
後の安徳天皇です。

重衡が安産を告げると、その場に集まっていた人々は、歓声を上げます。
清盛は悦びのあまり涙を流します。
重盛は桑の弓、蓬の矢で四方を射て、災いを払うのでした。

朗読について

平家物語の中には数えるほどしかない、慶事です。
素直に晴れやかに朗読しました。

平家物語は、慶事を描く時も最後は「しかし、後には悲惨な運命が…」的な意地悪な 締め方をすることが多いですが(例「行隆之沙汰」「鵺」)この「御産巻」は、カラリと めでたい雰囲気のまま話を終わっています。
珍しいです。

この安徳天皇が後には一番の源平合戦の被害者というか、運命に翻弄され、ついには 二位の尼に抱かれて十歳で海に沈むのですが…。

また、注目すべきは清盛のツンデレっぷりでしょう。
西光法師をさんざんに拷問し、口を裂いて殺した残虐非道の清盛ですが、 たまに見せるツンデレっぷり。素晴らしいです。
聖人君子すぎる重盛よりも、清盛の破天荒で勢いに任せてガーッとやってしまう、 しかしあくまで情に厚いというキャラクター…憎めないです。

さりともいくさの陣ならば、これほど浄海は臆せじものを

戦ではバンバン敵をブッ殺して、大活躍でヒーローな俺様。
あぁ…でも今は動揺しているよどうしようどうしよう、ということです。

なんとも実感に溢れた、よい台詞です。


posted by 左大臣光永 | 平家繁栄
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