朗読 平家物語一の谷 知章最期

知章最期

平家物語:知章最後 朗読mp3

平家物語巻第九より「知章最期(ともあきら さいご)」です。
武蔵守知章は父知盛を敵からかばおうと割り込み、討たれます。

あらすじ

義経の奇襲作戦により、一の谷の平家軍は総崩れとなり、敗走していきます。(「坂落」)。

その中に新中納言知盛(しんちゅうなごん とももり)、 その子武蔵守知章(むさしのかみ ともあきら)、 郎党の堅物太郎頼方(けんもつたろう よりかた)、三人の姿がありました。

児玉党が追撃してきて、交戦となります。
知章は父に組もうとした敵の中に割り込みますが、逆に討たれてしまいます。
堅物太郎も討たれます。

この間に知盛は海を渡り、味方の船に逃げ延びます。
阿波民部重能が「馬が敵の手に落ちれば事だ。射殺そう」と言いますが、 知盛は「命を助けてくれた馬なのだ」と、射させず追い返します。

この馬は宗盛が昇進の時に下されて、知盛に預けた馬でした。
信濃国井上で育ったので「井上黒」と呼ばれました。
後には河越小太郎重房の所有となり「河越黒」と呼ばれました。

知盛は宗盛に対面し、子息知章と郎党堅物太郎を討たれ、一人逃げ帰ったことを 涙ながらに語ります。

宗盛は涙を流します。
知章は宗盛の子息衛門督清宗と同年。十六歳でした。

朗読について


いかなれば、子はあって、親をたすけんと敵にくむを見ながら、いかなる親なれば、子の 討たるるを助けずして、かように逃れ参って候らんと、人の上で候はば、いかばかりもどかしう 存候ぺきに、我身の上に成ぬれば、よう命は惜しいもので候けりと、今こそ思い知られて候へ

「自分を助けようとした子供を見捨てて逃げ帰ってきたとは…何とあさましい」
他人のことなら、そう非難していたでしょう。
しかし自分の身になると…こんな状況であっても命は惜しい。
ここまで人は命に執着するものなのですな…、

実感に溢れた、知盛の言葉です。

知盛の壇ノ浦での最後の言葉、「見るべきほどのことは見つ」(「内侍所都入」)は、 知盛が経験し、見てきたことを考えると、いよいよ胸に響きます。

知章の死、そして多くの同胞たちを失ったこと…。
そういう背景に思いを馳せながら朗読せねばいかんです。

また、知盛とその馬、井上黒との別れも涙を誘うシーンです。
平家物語には、佐々木四郎高綱の生ズキ、義経の大夫黒など印象深い馬が登場します。
馬のキャラクター性も考えつつ朗読したいものです。

一の谷、屋島、壇ノ浦と平家物語の後半はどんどん重いトーンになっていきます。
合戦シーンも「橋合戦」や「宇治川先陣」のような豪快さはなくなり、ひたすら悲痛です。
朗読するほうも、辛くなります。


posted by 左大臣光永 | 一の谷