平家物語巻第八より「緒環(おだまき)」です。
豊後国の住人緒方三郎維義(おがたのさぶろう これよし)は、平家追討を命じられます。
この緒方三郎維義の先祖は、高千穂の明神の神体である大蛇と人間の女性との契りによって
生まれたという伝承があります。
あらすじ
木曽義仲に都を追われた平家一門は、九州に逃げ延びました。
いまだきちんとした内裏もつくらず、大蔵種直の宿所を臨時の御所にしていました。
一門はまず宇佐八幡宮(現大分県宇佐)に参詣します。
七日目の朝、大臣殿(宗盛)の夢に、宇佐八幡のお告げがあります。
世のなかの うさには神も なきものを なにいのるらむ 心づくしに
(意味)世の中の悲しいことには、神もどうすることもでないのに、心を尽くして何を
祈るのだろうか。「憂さ」と「宇佐」、「尽くし」と「筑紫」をかける。
目が覚めて、大臣殿は答えます。
さりともと おもふ心も むしの音も よわりはてぬる 秋のくれかな
(意味)まだどうにかなるだろうと思う私の心も、虫の鳴き声も、ともに弱り果ててしまった
秋は暮れよ
九月十三日は、見事な月でしたが、平家の人々は都を思う心細さに包まれていました。
薩摩守忠教、
月を見し こぞのこよひの 友のみや 宮こにわれを おもひいづらむ
(意味)去年の今夜、一緒に月を見た友だけは、宮古で私のことを思い出して
くれているだろうか
修理大夫経盛、
恋しとよ こぞのこよひの 夜もすがら ちぎりし人の おもひ出られて
(意味)なんと恋しいことよ。去年の今夜、一晩中契りあった人が思い出されて
皇后宮経正、
わけてこし 野辺の露とも きえずして おもはぬ里の 月をみるかな
(意味)はるばる分け入ってきた野辺の露のようにはかない命なのに、
途中死にもせず長らえ、予想もしなかったこんな山里で月を見ていることよ
都より豊後国へ平家追討の命令が下り、
代官の頼経は、緒方三郎維義にその任を負わせます。
この緒方三郎維義の先祖については伝承があります。
昔、備後国の片山里にある女のもとに、よなよな男が通っていました。
女の腹が大きくなったのを母があやしんで問うと、「どこに帰っていくのかわからない」とのこと。
そこで男が朝帰りするとき、狩衣の襟に針をさし糸巻をつけて、その糸をたどっていくと、
姥岳山の麓の岩屋に入っていきました。
女が呼ぶと、中から大蛇が現れます。
狩衣の袖に刺したと思った針は、大蛇の喉笛に刺さっていたのでした。
女はほどなく、丈夫な男の子を産みます。
夏も冬も手足にあかがり(あかぎれ)があったので、「あかがり大夫」と呼ばれました。
この大蛇は、日向国高千穂の明神の神体であったということです。
緒方三郎維義は、このあかがり大夫から五代目の子孫にあたります。
「緒環」雑感
こぶしの花が咲き、ようやく風が暖かくなってきた頃の朗読です。
冬の間何度朗読しても声がジャリジャリしてました。
というわけで5回くらい録音したような。思い出深い章です。
高千穂大蛇の苦しげな声が朗読のポイントです。
発声が悪いというのもあるが、冬場は乾燥して声が出にくいのも事実です。参った。
緒方三郎維義です。えらいマイナーな武将ですが、こういう人物にも平家物語は時にスポットを
当てるのです。
光栄のゲーム「源平合戦」には、確かにこの緒方三郎維義、豊後国の武将として登場してました。
名前を見た瞬間「おおー、やってくれるよ」と大喜びしたのを覚えております。
「信長の野望」や「三国志」のはざまで、話題にもならないですが、
たしかに源平合戦のゲームがありました。
合戦の前に歌を詠んで士気を高めるというシステムが斬新でした。
もう10年以上昔になりましょうか目が真っ赤になるまで遊びまくったのを覚えています。
そういう懐かしい思い出に浸りつつ、朗読しました。